2022年3月29日火曜日

論文「制裁で打撃を受けるロシア有力企業とオリガルヒ」をHPに掲載しました。(2)

本ブログは、論文「制裁で打撃を受けるロシア有力企業とオリガルヒ」を紹介する前回のブログに続きます。論文は、HPに掲載しています。ご参照ください。

3 有力企業とともに資産が激減するオリガルヒ
3節は、Forbes, Forbes WORLD'S BILLIONAIRES LIST, The Richest in 2021から、ロシアの富豪上位15人を取り上げ、1節に登場したロシア企業とのきわめて密接な関係を明らかにした。
この表の上位の富豪の一部については、前の論文で紹介した。それは、株式時価総額第4位のNovatek取締役のLeonid V. Mikhelsonが富豪第5位、同じく同社取締役のGennady N. Timchenkoが富豪第6位に、株式時価総額第5位のNorilsk Nickel会長のVladimir PotaninがOlderfrey Holdings Ltd, the Companyを通じて、富豪第2位に入っていることを明らかにした。
表3に依れば、さらに株式時価総額第9位の鉄鋼業Severstalの多数株主であるAlexey Mordashovが富豪第1位に、株式時価総額第8位のNovolipetsk Steel (NLMK)のChairman of the Board of DirectorsのVladimir Lisinが富豪第3位に、株式時価総額第6位のLukoil会長(President)のVagit Alekperovが富豪第4位に入っている。株式時価総額7位のPolyusのSuleiman Kerimovが富豪第10位である。株式時価総額6位以下の企業での巨額の資産を持つ富豪が目立っている。

ところで、表3は、ロシアの富豪達の資産は制裁によって大幅に減少していることも示している。資産額左の項目はForbes2021年調査当初の金額、右側の金額は2022年3月26日の評価額である。全体として見れば約25%の減少である。

彼らの資産がどのように蓄積されているかについては、Forbesは詳細を明らかにしていない。自社の株式やロシアの国債などのロシアの金融資産であれば、大幅に減少しているだろう。しかし、彼らもロシア経済の現実を理解していて、その多くをヨーロッパ最大の金融市場ロンドン、金融資産の情報が秘匿できるスイス、そして西インド諸島などのタックス・ヘイブンに分散して所有していると推測できる。しかし、スイスやタックス・ヘイブンも今回は制裁に同調している。

おわりに:オリガルヒと先進民主主義国の財閥
オリガルヒは、一般にロシアにおける新興財閥と訳されている。より詳しく言えば、旧ソ連が崩壊し、それまで社会主義国家が所有していた資産を破格の安価で購入し、それをもとにして企業を興し、巨大な企業と、経営者個人として巨額の資産を手に入れた経営者達を指す。ロシアが引き継いだ社会主義国家ソ連は、革命の際に多くの人々の財産を無償で暴力的に手に入れていたので、オリガルヒ達はその資産を実際の評価とは見合わない安価で購入できたのである。売却の過程を通じて、国家の政治家・官僚と企業の経営者達の間で、緊密な関係ができあがった。その緊密な関係が、ロシアのウクライナ侵攻に見られるような政権の暴走を生み出したと言えるだろう。
以上のようなロシアの新興財閥は、先進民主主義各国の財閥、新興財閥とは全く異なる発展の過程をたどっている。先進諸国の財閥、新興財閥は、まず個人経営の小さな会社を興し、株式会社の設立に進み、資本の蓄積に長い歴史をかけて巨大企業にまで成長してきた。その過程では、金融市場での株式の公開、社債の発行を通じて、機関投資家や個人投資家から、事業のための必要な資金を調達してきた。一部の企業では国家の支援を受けてきたこともあるが、それは支配的ではなかった。

ロシアの新興財閥は、その発展のために国家と一体になることが不可欠だが、本論文が様々な角度から一貫して主張したように、先進諸国の市場と資本、技術が幅広く必要である。先進諸国との広範囲な結びつきが弱まれば、ロシアは市場機能が弱体化し、再び国家と国家官僚が支配的な地位に就く、ソ連時代の混乱と停滞の社会主義経済に戻ってしまうことになるだろう。


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