2017年8月6日日曜日

第2次世界大戦を見直す大著『裏切られた自由(フーバー大統領回顧録)』邦訳刊行迫る

書評「フーバー大統領回顧録『裏切られた自由』を読む:日本にかんする叙述を中心にして(Book Review: Hoovers’ FREEDOM BETRAYED, Focusing on Chapters Related with Japan)」を、私のホームページに掲載しました。
書評は、書評「フーバー大統領回顧録『裏切られた自由』を読む:日本にかんする叙述を中心にして 論文】(クリック)していただいても見られます。

********************
長らく待たれていた『裏切られた自由(フーバー大統領回顧録)』の翻訳が刊行される予定である。上下2巻で上巻は7月13日刊行済み。(Freedom Betrayed: Herbert Hoover's Secret History of the Second World War and Its Aftermath, Edited with an introduction by George H. Nash, Hoover Institution Press, 2011, Pages: 1,080)

ハーバート・クラーク・フーバー(Herbert Clark Hoover, 1874-1964)は、アメリカ合衆国第31代大統領(1929-33)である。大統領在任最初の年に有名な世界大恐慌がアメリカと世界を襲い、その勃発と長期化を防げなかった政治的な責任に対する批判によって、フーバー大統領の評価は高くなかった。
しかし、彼が大統領になるまでの企業家や政治家としての実績、アメリカ的な理念に基づく大統領職務の遂行だけではなく、本書に見られるような膨大な資料の収集とその緻密な検討によって、従来の第2次世界大戦観を見直そうとした彼の業績が改めて見直されようとしている。

次回のブログから2回に分けて、藤井厳喜他『日米戦争を起こしたのは誰か ルーズベルトの罪状・フーバー大統領回顧録を論ず(2016年1月刊)と、渡辺惣樹『誰が第二次世界大戦を起こしたのか: フーバー大統領『裏切られた自由』を読み解く(2017年7月刊)によって、"Freedom Betrayed"を読み解いていきたい。

フーバー大統領の基本的な考えは、何よりも共産主義への一貫した厳しい批判である。その批判は、ルーズベルトによるソ連の承認に始まり、ソ連との同盟による戦争準備、終戦処理でのソ連への大幅な譲歩などのすべての過程に向けられていた。それは同時に、そのルーズベルトの政策が、戦後の共産主義体制の拡大、東西冷戦をもたらしたことにも向けられていた。
スターリン支配下のソ連と各国での共産主義運動との対決を念頭に、フーバーは日本に対しては日米開戦の回避、開戦後は速やかな講和を求めていた。その意味で、日本人にとって第2次世界大戦を根本的に見直すための不可欠な文献である。

今、冷戦時とは状況がやや異なるとは言え、共産党一党独裁を強める中国の軍事的海外進出や、国内の民主化運動への弾圧、北朝鮮の度重なる軍事的挑発、ソ連崩壊後のロシアの軍事的海外進出は、冷戦時に匹敵する世界的な混乱と危機を生み出している。
これらの事態に対しどう対処すべきかについても、この書籍は私達に重要な示唆を与えてくれる。

まず、"Freedom Betrayed"の構成は、以下の通りである。
VOLUME I
I A Great Intellectual and Moral Plague Comes to Free Men, II I Make an Appraisal of the Forces Moving among Nations in 1938, III A Revolution in American Foreign Policies, IV 1939: In Europe, a Year of Monstrous Evils for Mankind, V The Communist-Nazi Conquest of Europe, VI More American Action-Stronger Than Words-but Less Than War, VII Brainwashing the American People, VIII The Revolution in American Foreign Policies Continued, IX The Opportunity to Make Lasting Peace Comes to Franklin Roosevelt, X The Road to War
VOLUME II
XI The March of Conferences, XII The March of Conferences, XIII The March of ConferencesーThe Tehran-Cairo Conferences November-December 1943, XIV The March of Conferences, XV The March of ConferencesーThe Yalta Conference: February 4-11, 1945, XVI The Rise, Decline and Fall of the Atlantic Charter, XVII The First Days of the Truman Administration, XVIII The March of Conferences-The Potsdam Conference and After
VOLUME III: Case Histories
I A Step-by-Step History of Poland, II The Decline and Fall of Free China-A Case History, III The Case History of Korea, IV Vengeance Comes to Germany
APPENDIX 
Selected Documents Pertaining to Freedom Betrayed 
About the Author and the Editor
Index

第2次世界大戦について見直すためには、『第二次世界大戦に勝者無しーウェデマイヤー回想録』やハミルトン・フィッシュの『ルーズベルトの開戦責任 -大統領が最も恐れた男の証言』などは、本書ともに必読の文献である。ウェデマイヤーとフィッシュの文献については、すでに私の以下のブログで紹介した。これらの著作をあわせ読めば、ルーズベルトによる共産主義体制との妥協を基本とする外交政策は、アメリカ国内で幅広く批判されていたことが理解できる。

ハミルトン・フィッシュ(Fish, Hamilton)の『ルーズベルトの開戦責任』 (2015.7.17)
第二次大戦に勝者なし ウェデマイヤー(Wedemeyer,Albert C.)回想録 (2015.7.21)

『裏切られた自由』(上)の出版社草思社のwebsite
草思社のブログでの同書の紹介

3 件のコメント:

  1. 読了した後に、投稿すべきだと思いますが、現在読み進める中、モヤモヤ感があります(上巻P262:第11章1938年の中国)。
    ①本書が、発行された時の、あるいは現在のアメリカ国、共和党、民主党議員、はたまたアメリカ国民の反応は、どうなのか?、と。
    ②Herbert Hoover氏による共産主義への批判は、文中強烈に感じながら読んでいますが、P259:「共産主義ロシアの生活」について、ロシア国民自身(労働者、農民の状況)は、反共産主義として陽の目を見なかった原因は、何か?

    冒頭のアメリカの本書に対する気持ちを検索した中、偶然、本サイトを見出し、投稿しました。

    なお、本書に巡り合ったのは、藤井巌喜氏の著書:「太平洋戦争の大嘘」を読んだ際の知りました。

    返信削除
  2. 遅くなりましたが、ご丁寧なコメントをありがとうございます。本ブログをより詳しくした、以下の論文をお読み頂けましたらありがたく思います。
    https://docs.google.com/viewer?a=v&pid=sites&srcid=ZGVmYXVsdGRvbWFpbnxoc2hpbXBvanB8Z3g6MmQ1MTU5YTVjMDFjNGNm

    返信削除